Trans* Issues

トランスジェンダーに関する英語や日本語の記事を紹介

トランスジェンダーの保護、ヘルスケアの視界不良で先行き不明

2017/3/26 The Guardian

www.theguardian.com

全訳

2016年春、エリヤ・フィッシャーは保険会社に電話して、自分のプランで両乳房全摘手術がカバーされるかを尋ねた。27歳でフロリダ在住のトランス男性であるエリヤはほぼ性別移行を完了していたが、女性的な胸が残っていた。

「見下ろすと、そこに自分でないものがある」とエリヤは当時の気持ちを語った。自分が自分にとって異質であると感じていた。夏が近づくにつれ、ビーチを避け、妻ブリアナとカヤックをする季節がまたやってくるのを恐れるようになった。

だから、彼の保険会社アンセム・ブルークロス・ブルーシールドが手術をすぐに承認したときには安心をした。

「やった」とお互いに言い合ったものだ、とブリアナは語った。「簡単でした。すばらしかった。」

 現実には、これはアンセムとの9か月以上に及ぶことになる戦いの始まりに過ぎなかった。この会社は承認を撤回して、エリヤのプランは「性別移行関連のサービスや物品」を明示的に除外していると明かしたのだ。緊迫した電話と細かい文字でのやり取りがあった後、最終的にエリヤは保健福祉省に連絡を取り、差別であるとの申立てを行った。

 エリヤのケースは、彼が思うに、明快だった。連邦法は保険会社が性別に基づいて差別を行うことを禁じている。実務上、政府によれば、これは保険会社が何らかの治療をある状況ではカバーしながら、患者がトランスである場合には拒絶するということができないことを意味する。例えば、エリヤが加入するアンセムのプランでは、両乳房全摘手術が女性に対して多くのケースでカバーされる以上、エリヤに対しても同様の手術をカバーしなければならない。

 しかし、この法解釈はオバマ政権によるものだ。そして、ヘルスケアにおける性差別を禁止している法律はAffordable Care Act(ACA)であり、前任者の遺産を掘り崩そうとするトランプ大統領のナンバー・ワン・ターゲットだ。

エリヤのストーリーは、共和党がACAの廃止に成功した場合にトランスの人々が直面するかもしれない障壁を垣間見せる。この非差別ルールは特別な危険にさらされている可能性がある。というのも、議会でACA廃止の努力が失敗した今、トランプ政権はオバマケアを執行させなくすることで切り崩す方法を模索しているのである。

一部の保険会社はすでにこれを見込んでいるようだ。トランプの選出から2,3週間後、保健福祉省の公民権調査官がエリヤに悪いニュースを電話で知らせてきた。保険会社は依然として彼の手術をカバーすることに同意せず、それに加えて、全国の保険会社がトランスのヘルスケアに関するオバマのルールに従う計画を捨て去りつつある一方で、ACAに何が起こるかを見守っているというのだ。

「また一年も二年も待ちたくありませんでした」とエリヤは言った。「ましてや四年なんて。」

そうして、3月7日の朝、フィッシャー夫妻は南に4時間半車を運転してフォートローダーデールに向かい、外科医のオフィス近くのホテルにチェックインした。手術の代金を自分で支払うことに決めたのだ。費用はほとんど1万ドルに上った。

 Out-of-body, out-of-pocket

 エリヤが直面したバリケードは、まさにオバマ政権が取り除きはじめた類のものだ。

 研究が明らかにしたところによると、トランスの人々はヘルスケア市場の気まぐれに極めて脆弱だ。トランスジェンダーの成人27000人以上を対象にした2015年の調査によれば、前年、性別移行関連の手術に対する保険適用を求めた人々のうち55%が適用を拒絶されていた。

手術に対する保険適用を求めた非トランスの人々における比率と比較するデータは存在しない。「しかし、トランスの人々に対してずっと頻繁に起こることだと経験から推測しています」と、Transgender Legal Defense and Education Fundで訴訟関連の取締役を務めるエズラ・ヤングは語った。

その理由はしばしば平凡だ。明示的に性別移行関連のヘルスケアのカバーを除外する保険会社がある一方で、性別移行に関するケアがどのような場合にカバーされるかを決めるガイドラインが単にない、という保険会社もある。オバマ政権がルールを最終的に確定させようとしていたとき、一部の保険会社は、子宮切除のような女性の手術を男性のクライアントに対して承認することをコンピューターシステムが受け付けてくれないと文句を言った。

主流の医療専門家は、トランスジェンダーの人々が性別適合手術へアクセスすることができるようにすることは必須であると考えている。2008年、全米医師会は保険会社に対し、多くのトランスの人々にとって性別適合関連の医療は医学上必要なものだとして、乳房切除などの処置に制限を設けることをやめるよう呼びかけた。

「苦悩がありました」とエリヤは自分の胸を見るたびに感じていた重荷を語った。「ほとんど幽体離脱のような体験でした。私の一部分を自分のものと思うことができないのです。」

アンセムはフィッシャー夫妻をメリーゴーランドに乗せた、とブリアナは語った。保険会社はエリヤに手術がカバーされると伝える。しかし外科医のオフィスが同じ質問をすると、反対の答えを返すのだ。それが何度も続く。

しばらくして、アンセムとの一対一のやり取りは耐え難いものになっていった。カスタマーサービスの担当者は繰り返し、エリヤが受けようとしているのは精管切除かと、両乳房切除と取り違えて尋ねたという。別の電話は審問に変わった。

「ひどい通話でした」とエリヤは語った。「男性なのにどうして女性の手術が必要なのかと繰り返し詰問したのです。」エリヤは自分がトランスジェンダーだと説明しようとしたが、結局、電話を切った。

6月、彼は保健福祉省に公民権侵害の訴えを始めた。

エリヤは委員に彼の保険プランの規定のコピーを送った。それはTransgender Legal Defense and Education Fundのヤングにも共有された。ヤングによればその規定は、何らかの追加の条項がある場合を除いて、トランスの人々に対して差別的であると思われた。あらゆる「性別移行に関連したサービスや物品」を除外する明示的な条項があったのだ。

エリヤはまた委員に、エリヤ、アンセム、外科医のオフィスと保健福祉省の公民権担当オフィスが割り当てた調査官との間のメールも提供した。すべてのメールは似たような調子だった。礼儀正しいが頑なで、詳細だが急ぎ足だ。

秋には、エリヤとブリアナは結婚しようとしていた。何十人もの友人と家族を招いた大きなパーティーを思い描いた。そしてエリヤはタキシードを着て、ついに、自分自身の装いをするのだ。

「結婚式の写真を見て、胸がまだそこにあるとわかってしまうなんて、そんなことは望んでいませんでした」と彼は言った。その考え-「結婚式の写真を自分が望むように見て、そこに本当の自分を見る、ということができなくなる、という」-は彼を荒れ狂わせた。

8月までには、アンセムは手術に対する保険適用に同意しないだろう、まして結婚式の日までには決して、ということが夫妻には分かってきた。そのため、夫妻は大きなパーティーの計画を手放した。来客がプレゼントに何がいいかを尋ねた時には、手術のためのお金が欲しいと答えた。手術に5600ドル以上が必要で、それとは別に麻酔科医のために1000ドルが必要だった。さらに何千ドル以上が、食事、エリヤが運転できるようになるまで回復するのに宿泊するホテルや、大量の医療用品のために消えるはずだった。

夫妻は10月に結婚を祝った。エリヤのタキシードの下には胸を隠すために着込んだナベシャツがあった。

そして、12月13日、公民権調査官が緊急のメールを送ってきた。「今すぐ電話を。」

エリヤによれば、ベアトリッツ・ロメロ-エスコバール調査官はこう語った。国中のトランスのクライアントから、2017年の初めにはカバーされることになっていた処置が拒絶されたという話を聞いているというのだ。その話について詳しく教えてほしい、という頼みに彼女は答えなかった。

「彼女はこう言いました。『どうも、トランプが政権を取ったので、何が起こるか見守っている、ということのようです…トランプはAffordable Care Actの廃止を望んでいますので』」とエリヤは語った。

アンセムは一度は彼に、電話で、2017年1月にはトランスに関する処置をカバーするよう方針を変える予定だと伝えていた。しかしこの会社はそれを文書で確約してほしいという嘆願を無視していた。フィッシャー夫妻がエリヤの手術を自分の財布で賄うことに決めたのは、このときだった。

エリヤの手術は3月の初めに行われた。初めて自分を鏡で見たとき、彼は嬉しさで快哉を上げた。

委員の質問に対しアンセムは、エリヤのプランにおけるトランスジェンダーの除外は実は1月1日に取り除かれていたと答えた。条件を満たしていれば、エリヤが要求をすれば費用が払い戻されるという。

さもなくば、夫妻は財政的な困難の時に備えることになる。だがいずれにせよ、夫妻はこの10月のためにお金を取っておくつもりだ。ブリアナはまだウェディングドレスを持っている。エリヤもまだタキシードを持っているのだ。ドレスとタキシードは一周年記念の時まで二人のクローゼットに掛かっていて、そのとき、二人が望んだ写真を撮るつもりだと、エリヤは語った。