Trans* Issues

トランスジェンダーに関する英語や日本語の記事を紹介

トランスの権利を男性の暴力を理由として否定しないで

2017/10/24 The Guardian

Ruth Hunt

www.theguardian.com

全訳

長年にわたり無視されると同時にセンセーショナルに扱われてきたトランスの人々とその問題に関する議論が、俎上に載せられるようになっている。だがその議論は残念なことに、トランスと女性の権利を支持する人々——共通の原因を持つはずの二つのグループだ――の間の、誰が平等へとアクセスすべきであり、誰がそうすべきでないのかをめぐるひどい戦いへと変わってしまった。

2004年、Gender Recognition Actはトランスジェンダーの人々が存在し、それらの人々の性別が法において承認されるべきことを確認した。それは自分には精神疾患があるとトランスの人々が証明することに依存した、ぎこちないプロセスである。私たちはかつて1992年、同性愛を精神疾患とラベリングすることをやめたのだ。間違いなく、それはトランスジェンダーの人々にとって長く待ち望まれていることではないだろうか?首相(テレサ・メイ)が先週、ピンク・ニュース・アワードで再確認したように。「トランスであることは病気ではなく、病気として扱われるべきではありません。」

トランスの人々や、男性でも女性でもない人々は、虐待や差別を受けることなく自分自身であると承認されるべきであり、長期間の屈辱的なプロセスを経験させられるべきではない。注目すべきことに、私たち(イギリス)よりもっと保守的な社会――アルゼンチン、アイルランドやマルタ-がみな、それを実現したのだ。なぜ私たちにできないのか?

一部の人は、もし人々が自分の性別を、官僚的な手続きや書類なしに自分で宣言することができるようになれば、男性は女性専用のスペースにアクセスして女性を攻撃するために「私は女性です」と単純に言うようになると思っている。私たちはみな男性の暴力について考えるべきであり、私たちはみなそれを防ぐこと、それが起こった時に応答することについて考えるべきである。

しかし、トランスの人々に平等を賦与することは女性をより安全でなくしないだろう。私たちは不幸なことに、女性の安全が保障されていない社会に生きている。だが、トランスの人々はこのことで責められるべきではないし、しばしば自分自身を危険にさらしているのだ。トランスの人々をスケープゴートや、現実問題からの目くらましにすることはできない。トランスの人々に権利を賦与することは暴力的な男性に暴力的にふるまう許可を与えない。現実には、もしある男性が女性専用のスペースにアクセスするために女性の服装をしようと思えば、いずれにせよそうするのである。どんな紙切れもそれを防ぐことはできないだろう。

ドメスティック・バイオレンスの機関や刑務所は幅広いバックグラウンドをもった人々を注意深く扱う非常に多くの経験を有している。ドメスティック・バイオレンスやレイプ・クライシス・センターは男性の暴力による被害者の支援に一次的に関わっており、自分たちの玄関にやってきた人なら、トランス男性や女性を含め、誰であれ常に適切なサービスを提供する。このことは、そうしたセンターが長年にわたり、トランスの人々に身分証を見せるよう要求することなく、行ってきたことだ。彼らは複雑なニーズのバランスを、繊細さとプロフェッショナリズムを持ちながら、いかにとるかを知っている――トランス(とLGB)の人々が、バーミンガムの女性支援センターに隣接したLGBT専門のサービスのような、自分たちに特化したより直接的なサービスを必要としていることは、確かだとしても。

刑務所もまたこれらの問題を長年にわたり扱ってきた。司法省がその指針で述べているように、「トランスジェンダーの犯罪者が自らの自認するジェンダーで刑事司法制度を経験することを認めることは、大部分のケースにおいて、最も人道的で安全な処置を示すものとなるだろう。我々は、これは更生の成功をも後押しするものであろうと考える。」

犯罪者が収監中に性別移行をする意思を示した場合には、その人は中心的な専門的支援を得て、包括的なリスク監査を受けることになる。どこに置かれているかに関わらず、その人は自らのジェンダーで生きることができることになるが、それは自動的にもう一方の刑務所に移送されることを必ずしも意味しない。暴力的な男性は、自分が女性だと宣言して自動的に女性刑務所に移送されることはできない。そのようなことは今、起こらない。この制度は、男性刑務所から女性刑務所への大規模な移送を促進していないし、することもないだろう――違うことを言っている大見出しのことは置いておくとして。

男性刑務所でのトランス女性の悲劇的な死は、トランスの収監者の安全を守るためにもっとできることがあることを示している。だが、これらの問題は身分証の性別記載に関する行政を変更することによって解決したり悪化したりはしないだろう。しかしながら、意識を高めることは、よりよい対話、よりよりケア、よりよい更生と、不必要な死の減少をもたらすかもしれない。

トランスの人々は安全に対して女性と同じリスクに直面している。研究によれば、44%のトランスの人々が特定の道を通ることを、安全だと感じないために避けているし、昨年だけでも、5人に2人のトランスの人々が性自認を理由としたヘイトクライムを経験している。このことが、これを読む女性にとってなじみのあることに聞こえるなら、それはあなたが共通の原因を持っているからだ。

女性とトランスの人々はともに、ジェンダーを理由として真の平等にアクセスすることから妨げられている世界に存在している。私たちは、平等を切実に必要とし、平等に値するのであって、平等を切り崩す主張によって分断されてはならないのだ。

 

女子の部で競技させられたトランスジェンダーのレスラー、勝利後にブーイングを浴びる

2018/2/25 Independent

www.independent.co.uk

全訳

意に反して女子の部で競技させられたトランスジェンダーレスリング選手が、テキサス州タイトルを二年連続ストレート勝ちで守った後、観客からブーイングを浴びた。

ダラス近くのユーリス・トリニティ高校の生徒で18歳のマック・ベッグスは、ヒューストン郊外のサイプレスで行われたトーナメントに負け知らずの記録とともに参加していた。

ベッグスは土曜日に行われた110ポンド級の決勝でチェルシー・サンシェズを、2017年のタイトル獲得戦に続いて破った。しかし、試合のビデオから、多くの観客がベッグスの勝利に怒りをぶつけていたことがわかる。

ベッグスは女性から男性への性別移行プロセスの途上であり、低用量のテストステロンを服用している。

このレスラーは繰り返し男子の部で競技させるよう求めていたが、テキサスの公立高校の規則では、選手は出生証明書に記載された性別に基づきトーナメントに参加しなければならない。

「彼はレスリングの相手となる女の子に対してとても敬意を持っています」と、母親のアンジェラ・マクニューは語る。「人々はマックが女の子を叩きのめしていると思っています。彼がレスリングをする女の子は、タフですよ。」

レスリングでは強さよりも、技術と訓練が大事なのです。」

ベッグスが女子とレスリングをしながらステロイド療法を受けていることは、昨年の大会前、競技上の公平性とトランスジェンダーの権利に関する激しい論争に火をつけた。

ベッグスのチャンピオンへの道程では、二人の選手が頭部を怪我することを恐れて撤退し、失格となった。

今年の州タイトルへの行進の間、ベッグスと戦うことを拒否した選手は一人だけである。しかしベッグスは、彼の参加を阻もうとする親たちから訴訟を起こされている。

選手は出生証明書に記載された性別で競技しなければならないという規則は2016年、テキサスの高校スポーツを監督するUniversity Interscholastic Leagueにより承認された。

これは学校が競技者を決定することを助けるためになされたのだと、UILの副代表であるジャミー・ハリソンは語った。

ベッグスの最新の勝利により、彼は高校レスリングのキャリアにおける不敗記録を完成させ、最終シーズンでは35勝を挙げたことになる。

ベッグスは次は大学へ移ることになるが、大学におけるNCAAの規則では男子の部で競技することが可能になる見込みだ。

 

新しい診断コードはトランスジェンダーに対するスティグマを低減させる

New Diagnostic Codes Lessen Stigma for Transgender People
Jack Drescher, MD

2017/9/11 Medscape

https://www.medscape.com/viewarticle/885141

全訳

こんにちは。ニューヨーク市コロンビア大学精神科臨床学教授で、アメリカ精神医学会終身名誉フェローのジャック・ドレシャーです。私は、2013年に発表された「精神障害の診断と統計マニュアル」第5版(DSM-5)と、2018年に公開が予定されている「国際疾病分類」第11版(ICD-11)における自分の仕事について少しばかりお話しするためにここにいます。

私は性障害および性同一性障害に関するDSM-5の作業部会のメンバーでした。その委員会の役割はDSM-IVでは性障害および性同一性障害と呼ばれていたものを改訂することでした。私の属していた、特に性同一性障害にフォーカスした下位の作業部会は、1973年にDSM-IIから同性愛が診断カテゴリーとして取り除かれたのと同様に、DSMから性同一性障害という診断カテゴリーは、そのスティグマ化する性質のために取り除かれるべきだという要求と和解するよう求められました。

しかしながら、私たちの作業部会は、診断カテゴリーの削除は非常に問題であると結論付けました。なぜなら、様々なサービスにアクセスするためには、診断が必要であるからです。私たちはケアへのアクセスと、精神医学的な診断に伴うスティグマの間の板挟みになりました。それを必要としている人がいるなら、スティグマ精神疾患の診断カテゴリーを削除する十分な理由とはならないのです。

性障害および性同一性障害DSMから単純に削除することはできないと私たちは決定しました。一部の人は、これをVコードに分類することを提案しました。多くの方々がご存知のように、Vコードは精神疾患ではないが、メンタルヘルスの専門家の対応下におかれる可能性のある状態のために用いられます。しかしこれらの状態はほとんどの保険会社や多くの国のヘルスケアシステムにおいて給付を受けることができませんし、給付を要求するものと見なされていません。したがって、私たちはこれをVコードに分類することができませんでした。代わりに私たちは、診断カテゴリーを維持するが、スティグマを減少させるようないくつかの変更を行うことを決定しました。

小さくて意味のある変更

スティグマを減少させる一つの方法が「障害(disorder)」という語を削除することでした。私たちは性同一性障害から性別違和へと名前を変更しました。性別違和は元から文献に存在していた用語です。この領域で仕事をしている多くの人々がこの用語を認識しており、性同一性障害の診断カテゴリーに反対していた多くの人々がこの名前の変更を喜びました。

私たちはまた、望まない人に対して診断を下すことは望ましくないという考えから、診断基準を狭め、偽陽性の数を減らすことを試みました。DSM-IVよりも診断基準を少し厳格にしたのです。

性別違和を持つ人が治療を受け、法的な氏名変更を行ったとします。この人にはもう性別違和がありません。このことは、その人は診断を受けないということを意味するのでしょうか?そうです、そのような人には性別違和の症状がありませんが、仮に治療を受けなかったとすれば、症状があったでしょう。私たちはDSMに性別移行後という特定用語(specifier)の概念を導入しました。治療を受け、性別違和を持たないがかつて持っていたという人も、診断コードを持つことができます。こうして私たちはDSMにおけるこの問題を解決しました。

加えて、私たちは性的指向に関する特定用語を削除しました。いくつかの理由から、性的指向が性別移行の決定に関係しているかどうかということが問題になる時代がありました。例えば、20世紀の半ばには、もしあなたが男性に生まれ、出生時に男性と割り当てられ、女性に惹かれるが、自分は女性であると確信し性別移行を望むとしても、医者に自分は女性に惹かれると伝えることはできませんでした。医者たちは治療において最終的に異性愛者を作り出すことにしか関与しなかったのです。彼らは、最終的に同じジェンダーに惹かれるであろう人々を移行させることで、レズビアンやゲイ男性を作り出そうとはしませんでした。このことは今日臨床家が実践している枠組みにおいては問題ではありませんが、当時は問題だったのです。したがって、私たちは性的指向の特定用語を、臨床上の仕事に無関係であるという理由で削除しました。これらはDSMにおける変更の一部です。

私たちはまた、国際的なレベルにおいても若干の変更を行いました。世界保健機関(WHO)のICD-11は2018年に公開されます。ICDには、診断カテゴリーを入れるか出すかのどちらかしかないDSMと比較して、より柔軟性があります。ICDは精神医学と医学のすべての診断カテゴリーを含むものです。採用された提言は、性別不合(gender incongruence)と呼ばれる新しい診断カテゴリーを、精神疾患のセクションから「性の健康に関する状態」と呼ばれる別の章へと移動させるというものです。これは国家的なヘルスケアシステムを持つ国々が診断コードを設け、人々にケアを提供し続けつつ、精神疾患スティグマを減少させることを可能にします。

トランスジェンダーの人々は高度にスティグマ化された患者集団です。これはスティグマを減少させる一つの方法です。実際は、私たちは何がトランスジェンダー的な表現の原因なのかを知りません。それが精神医学的なものなのか、医学的なものなのかを知りませんし、それは私たちがなぜ人々がシスジェンダー(非トランスジェンダー)であるかを知らないのとまったく同じことなのです。この変更は一つの新しい診断カテゴリーを提示するものです。それがgender incongruenceなのです。

ご清聴ありがとうございました。ジャック・ドレシャーでした。

カナダ、パスポートにジェンダー中立的な「X」表記を導入【まとめ】

2017/8/31 The Gurdian

www.theguardian.com

記事のざっくりしたまとめ

  • カナダ市民はパスポートの性別表記にジェンダー中立的な「X」を選択することができるようになった。
  • カナダは、オーストラリア、デンマーク、ドイツ、マルタ、ニュージーランドパキスタン、インド、アイルランド、ネパールに並んで、何らかの第三の性別表記を選択可能な国となる。
  • カナダのLGBT人権推進団体であるEagleの理事ヘレン・ケネディによれば、これはノンバイナリー、インターセックスやトランスの人々の直面する困難を認識する最初の重要でポジティブな一歩である。同時にケネディは、「X」表記の導入はこれらの人々が空の旅で直面するアイデンティティ関連の障壁に対する万能薬ではないことを強調し、パスポートにおける性別表記のそもそもの必要性を疑問視した。
  • 今のところ、国際民間航空機関のルールにより、すべての渡航文書には性別表記が必須である。
  • パスポートで「X」を自認する人が他国に入国する際に問題が発生するのではないか、という不安がある。トランスジェンダーに関する法律問題を専門とするトロントの移民弁護士アドリアン・スミスは、LGBTであることが違法でありトランスを自認する人を告訴する法が存在するウガンダやジャマイカのような国において、「X」自認の人々が恣意的な拘留や空港での検査、尊厳を損なう扱いにさらされることを恐れている。

まとめ人コメント

 公的文書の性別表記として何らかの第三のカテゴリーを設ける国が少しずつ増えています。選択肢が増えること自体は良いことなのですが、このような「第三のカテゴリー」が誰にとって有用で、誰にとって有用でないかは意識する必要があります。

トランスジェンダーインターセックス性分化疾患の人もざっくりと「第三の性」のように括られてしまうことがありますが、これは基本的に良い考え方ではありません。いずれの場合でも、原則として「第三のカテゴリー」は女性/男性以外のジェンダーアイデンティティを持っている人や、何らかの理由で自認する性別と法的な性別を一致させられない人が使う(かもしれない)ものであり、それ以上でもそれ以下でもありません。

リソース

GIDアクティビストの山本蘭さんが日本の外務省にパスポートの性別について問い合わせたことがあったみたいです。外務省の回答が記載されています。

blog.rany.jp


トランスジェンダーの保護、ヘルスケアの視界不良で先行き不明

2017/3/26 The Guardian

www.theguardian.com

全訳

2016年春、エリヤ・フィッシャーは保険会社に電話して、自分のプランで両乳房全摘手術がカバーされるかを尋ねた。27歳でフロリダ在住のトランス男性であるエリヤはほぼ性別移行を完了していたが、女性的な胸が残っていた。

「見下ろすと、そこに自分でないものがある」とエリヤは当時の気持ちを語った。自分が自分にとって異質であると感じていた。夏が近づくにつれ、ビーチを避け、妻ブリアナとカヤックをする季節がまたやってくるのを恐れるようになった。

だから、彼の保険会社アンセム・ブルークロス・ブルーシールドが手術をすぐに承認したときには安心をした。

「やった」とお互いに言い合ったものだ、とブリアナは語った。「簡単でした。すばらしかった。」

 現実には、これはアンセムとの9か月以上に及ぶことになる戦いの始まりに過ぎなかった。この会社は承認を撤回して、エリヤのプランは「性別移行関連のサービスや物品」を明示的に除外していると明かしたのだ。緊迫した電話と細かい文字でのやり取りがあった後、最終的にエリヤは保健福祉省に連絡を取り、差別であるとの申立てを行った。

 エリヤのケースは、彼が思うに、明快だった。連邦法は保険会社が性別に基づいて差別を行うことを禁じている。実務上、政府によれば、これは保険会社が何らかの治療をある状況ではカバーしながら、患者がトランスである場合には拒絶するということができないことを意味する。例えば、エリヤが加入するアンセムのプランでは、両乳房全摘手術が女性に対して多くのケースでカバーされる以上、エリヤに対しても同様の手術をカバーしなければならない。

 しかし、この法解釈はオバマ政権によるものだ。そして、ヘルスケアにおける性差別を禁止している法律はAffordable Care Act(ACA)であり、前任者の遺産を掘り崩そうとするトランプ大統領のナンバー・ワン・ターゲットだ。

エリヤのストーリーは、共和党がACAの廃止に成功した場合にトランスの人々が直面するかもしれない障壁を垣間見せる。この非差別ルールは特別な危険にさらされている可能性がある。というのも、議会でACA廃止の努力が失敗した今、トランプ政権はオバマケアを執行させなくすることで切り崩す方法を模索しているのである。

一部の保険会社はすでにこれを見込んでいるようだ。トランプの選出から2,3週間後、保健福祉省の公民権調査官がエリヤに悪いニュースを電話で知らせてきた。保険会社は依然として彼の手術をカバーすることに同意せず、それに加えて、全国の保険会社がトランスのヘルスケアに関するオバマのルールに従う計画を捨て去りつつある一方で、ACAに何が起こるかを見守っているというのだ。

「また一年も二年も待ちたくありませんでした」とエリヤは言った。「ましてや四年なんて。」

そうして、3月7日の朝、フィッシャー夫妻は南に4時間半車を運転してフォートローダーデールに向かい、外科医のオフィス近くのホテルにチェックインした。手術の代金を自分で支払うことに決めたのだ。費用はほとんど1万ドルに上った。

 Out-of-body, out-of-pocket

 エリヤが直面したバリケードは、まさにオバマ政権が取り除きはじめた類のものだ。

 研究が明らかにしたところによると、トランスの人々はヘルスケア市場の気まぐれに極めて脆弱だ。トランスジェンダーの成人27000人以上を対象にした2015年の調査によれば、前年、性別移行関連の手術に対する保険適用を求めた人々のうち55%が適用を拒絶されていた。

手術に対する保険適用を求めた非トランスの人々における比率と比較するデータは存在しない。「しかし、トランスの人々に対してずっと頻繁に起こることだと経験から推測しています」と、Transgender Legal Defense and Education Fundで訴訟関連の取締役を務めるエズラ・ヤングは語った。

その理由はしばしば平凡だ。明示的に性別移行関連のヘルスケアのカバーを除外する保険会社がある一方で、性別移行に関するケアがどのような場合にカバーされるかを決めるガイドラインが単にない、という保険会社もある。オバマ政権がルールを最終的に確定させようとしていたとき、一部の保険会社は、子宮切除のような女性の手術を男性のクライアントに対して承認することをコンピューターシステムが受け付けてくれないと文句を言った。

主流の医療専門家は、トランスジェンダーの人々が性別適合手術へアクセスすることができるようにすることは必須であると考えている。2008年、全米医師会は保険会社に対し、多くのトランスの人々にとって性別適合関連の医療は医学上必要なものだとして、乳房切除などの処置に制限を設けることをやめるよう呼びかけた。

「苦悩がありました」とエリヤは自分の胸を見るたびに感じていた重荷を語った。「ほとんど幽体離脱のような体験でした。私の一部分を自分のものと思うことができないのです。」

アンセムはフィッシャー夫妻をメリーゴーランドに乗せた、とブリアナは語った。保険会社はエリヤに手術がカバーされると伝える。しかし外科医のオフィスが同じ質問をすると、反対の答えを返すのだ。それが何度も続く。

しばらくして、アンセムとの一対一のやり取りは耐え難いものになっていった。カスタマーサービスの担当者は繰り返し、エリヤが受けようとしているのは精管切除かと、両乳房切除と取り違えて尋ねたという。別の電話は審問に変わった。

「ひどい通話でした」とエリヤは語った。「男性なのにどうして女性の手術が必要なのかと繰り返し詰問したのです。」エリヤは自分がトランスジェンダーだと説明しようとしたが、結局、電話を切った。

6月、彼は保健福祉省に公民権侵害の訴えを始めた。

エリヤは委員に彼の保険プランの規定のコピーを送った。それはTransgender Legal Defense and Education Fundのヤングにも共有された。ヤングによればその規定は、何らかの追加の条項がある場合を除いて、トランスの人々に対して差別的であると思われた。あらゆる「性別移行に関連したサービスや物品」を除外する明示的な条項があったのだ。

エリヤはまた委員に、エリヤ、アンセム、外科医のオフィスと保健福祉省の公民権担当オフィスが割り当てた調査官との間のメールも提供した。すべてのメールは似たような調子だった。礼儀正しいが頑なで、詳細だが急ぎ足だ。

秋には、エリヤとブリアナは結婚しようとしていた。何十人もの友人と家族を招いた大きなパーティーを思い描いた。そしてエリヤはタキシードを着て、ついに、自分自身の装いをするのだ。

「結婚式の写真を見て、胸がまだそこにあるとわかってしまうなんて、そんなことは望んでいませんでした」と彼は言った。その考え-「結婚式の写真を自分が望むように見て、そこに本当の自分を見る、ということができなくなる、という」-は彼を荒れ狂わせた。

8月までには、アンセムは手術に対する保険適用に同意しないだろう、まして結婚式の日までには決して、ということが夫妻には分かってきた。そのため、夫妻は大きなパーティーの計画を手放した。来客がプレゼントに何がいいかを尋ねた時には、手術のためのお金が欲しいと答えた。手術に5600ドル以上が必要で、それとは別に麻酔科医のために1000ドルが必要だった。さらに何千ドル以上が、食事、エリヤが運転できるようになるまで回復するのに宿泊するホテルや、大量の医療用品のために消えるはずだった。

夫妻は10月に結婚を祝った。エリヤのタキシードの下には胸を隠すために着込んだナベシャツがあった。

そして、12月13日、公民権調査官が緊急のメールを送ってきた。「今すぐ電話を。」

エリヤによれば、ベアトリッツ・ロメロ-エスコバール調査官はこう語った。国中のトランスのクライアントから、2017年の初めにはカバーされることになっていた処置が拒絶されたという話を聞いているというのだ。その話について詳しく教えてほしい、という頼みに彼女は答えなかった。

「彼女はこう言いました。『どうも、トランプが政権を取ったので、何が起こるか見守っている、ということのようです…トランプはAffordable Care Actの廃止を望んでいますので』」とエリヤは語った。

アンセムは一度は彼に、電話で、2017年1月にはトランスに関する処置をカバーするよう方針を変える予定だと伝えていた。しかしこの会社はそれを文書で確約してほしいという嘆願を無視していた。フィッシャー夫妻がエリヤの手術を自分の財布で賄うことに決めたのは、このときだった。

エリヤの手術は3月の初めに行われた。初めて自分を鏡で見たとき、彼は嬉しさで快哉を上げた。

委員の質問に対しアンセムは、エリヤのプランにおけるトランスジェンダーの除外は実は1月1日に取り除かれていたと答えた。条件を満たしていれば、エリヤが要求をすれば費用が払い戻されるという。

さもなくば、夫妻は財政的な困難の時に備えることになる。だがいずれにせよ、夫妻はこの10月のためにお金を取っておくつもりだ。ブリアナはまだウェディングドレスを持っている。エリヤもまだタキシードを持っているのだ。ドレスとタキシードは一周年記念の時まで二人のクローゼットに掛かっていて、そのとき、二人が望んだ写真を撮るつもりだと、エリヤは語った。

 

テキサス州「トイレ法案」、共和党が紛糾する中また挫折【まとめ】

2017/8/16 The Guardian

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記事のざっくりしたまとめ

  • テキサス州トランスジェンダーの更衣室やトイレの使用を制限する「トイレ法案」を可決することに失敗した。この法案は、公立の学校や州政府の建物において、トランスジェンダーが出生証明書ないし州が発行する他の証明書に記載された性別に合致する設備を使用することを強制するもの。
  • 一部の議員は、2016年に同様の法案を可決したノースカロライナ州で起きたバックラッシュを恐れた。ノースカロライナは経済的なボイコットに苦しめられ、12月には共和党州知事民主党の知事に取って代わられ、法律の廃止に追い込まれていた。
  • リベラルな教会は保守的なキリスト教徒を相手に戦った。また石油企業や、グーグル、アップル、IBMマイクロソフトや、NFLといったスポーツ団体を含むビジネス界でも反対が広がった。アメリカン航空、サウスウェスト航空やAT&Tなどのダラスを拠点とする企業のCEOらは連名で、この法案が新しいビジネス、投資、職業や最も優れた才能を惹きつけるテキサスの力を損なうとして、テキサス州知事グレッグ・アボットに対し反対の書簡を送った。
  • 支持者らは、この法案は女性と子供を性犯罪者から保護し、プライバシーと尊厳を守るために必要だと主張。この主張には、テキサス州の多くの大都市の警察署長や公民権擁護団体が反対している。
  • トランプ政権の誕生によりホワイトハウスが大きく方針転換をする中、2017年には16の州でトイレ法案が検討された。しかし、今までに法律を成立させたのはノースカロライナ州だけである。ノースカロライナの経済と評判が被った損害に加えて、最も人口の多いレッド・ステート(共和党が支配する州)であるテキサスでの失敗は、他の州がこれに追随することを抑止しそうだ。

まとめ人コメント

保守派とリベラル派の分断が著しいアメリカですが、不幸なことに、トランスジェンダーのトイレ問題が両者間の文化戦争のターゲットとなってしまっています。

背景として、この件に関する大きな動きが二つあります。まず、オバマ政権が2016年5月、公立学校に対し、トランスジェンダーが自認する性別のトイレや更衣室を利用することを認めさせる通達を出したのですが、2017年2月にトランプ政権が撤回したこと。そして、ノースカロライナ州における2016年3月の「トイレ法案」(House Bill 2)の成立と2017年3月の撤回です。

トランス女性に女子トイレを使わせないことが「男性の性犯罪者から女性や子供を保護する」ために必要なのだ、という主張は非常に憂慮すべきものです。これは、トランス女性とシスジェンダー女性の間に偽りの利害対立を作り出します。しかし、おそらくだからこそ、このような主張を一蹴して済ませることは好ましくない、という気がしています。トランス女性だけでなくシス女性やトランス男性をも射程に入れた、トイレとジェンダーセクシュアリティに関する包括的な議論を構築することがたぶん必要です(が、きちんと議論するのはかなり大変そうです)。

リソース

アメリカ各州での「トイレ法案」に関する動向

http://www.ncsl.org/research/education/-bathroom-bill-legislative-tracking635951130.aspx

ギリシャ、性別変更法を可決。正教会は反対【まとめ】

2017/10/10 The Guardian

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記事のざっくりしたまとめ

  • アレクシス・チプラス率いるギリシャの左翼政府は、15歳以上の市民が精神科医による診断や不妊化なしに法的に性自認を決定することを可能にする法律を可決した。
  • 171対114で可決されたこの法律は、ヨーロッパにおいて社会的に最も保守的な国の一つであるギリシャの政治的な分裂と強固な信念を露わにした。野党は少数を除いて反対。中道右派政党New Democracyの党首Kyriakos Mitsotakisは、このような人生を左右する決定権を18歳未満に与えるのは誤りだと述べた。
  • また正教会もこの法律に反対。神が男と女を創造したのであって、「男性が誰でも簡単に女性になることができ、女性は男性になれる。これは悪魔的な所業だ」として糾弾。
  • 司教らはこの法律には隠れた目的があり、それは同性カップルが養子を取ることを可能にすることだと主張。この主張はネオ・ファシストのGolden Dawn党の見解と共鳴。
  • この性別変更法により、公的な記録、登録や書類は指定された性自認に適合される。これには出生証明書と学校の卒業証書を含む。
  • ギリシャは、デンマークアイルランド、マルタ、ノルウェーに並び、性別変更に精神科医による診断も医学的な処置も必要としない法律を採用する国となった。これまでは、性別違和の診断と生殖器の除去がなされていなければ性別の変更はできなかった。

まとめ人コメント

 ギリシャで性別変更法が可決、とのニュースですが、この法律のポイントは何といっても、「精神科医による診断」「不妊化」のどちらも要求していない、というところですね。

性同一性障害」という概念があることからもわかるように、19世紀後半から20世紀を通じて、精神医学はジェンダーを変えて生きることに関する概念や枠組みに支配的な影響を及ぼしてきました。

しかし、1990年代以降、アメリカを中心としたトランスジェンダー運動の台頭とともに、ジェンダーを変えて生きることは精神医学の問題ではないし、そのために性器の手術が必須のものとされるのもおかしい、という声が高まっていきます。

そのような主張が法律の世界にも取り入れられるようになってきたのですね。

ちなみに日本にも俗に「GID性同一性障害)特例法」と呼ばれる性別変更法がありますが、この法律は「診断」「不妊化」両方を要求しています。

さらに(悪い意味で)特筆すべきことに、日本の性別変更法には「子なし要件」と呼ばれる、未成年の子を持つ親は戸籍の性別変更ができない、という要件があります。おそらく家や家族の秩序を重んじる日本の家父長的な価値観が反映されたのだと思いますが、このような要件は世界的に見て例がないそうです。

政治と社会

ギリシャ与党Syrizaの有力者Nikos Xydakisのコメントがぐっときたので紹介します。

政治家が社会よりもっと進歩的でなければならない時がある。ギリシャがEU諸国の中で、この問題に関していまや最もリベラルな国の一員になることを嬉しく思っている。

「国民の理解が追い付いていない」ことを理由に何もしない日本が想起されます。

課題

アムネスティのページでは、今回のギリシャの性別変更法の問題点もまとめられています。

「診断」「不妊化」以外の性別変更法に関する論点がまとめられた形になっていて興味深いです。

www.amnesty.or.jp